オレンジ色のワンピース

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この国に最初に来た十代の頃、この国はまだまだ今のような豊かさをもった国ではなかった。

この国の家族にお世話になって数週間目のこと。『結婚式に行くわよ』と誘われた。結婚式なんて、日本にいた時だってほとんど出たことがない。何を着ていったらいいんだろう。ものすごく悩んで。

洋服は普段着ばかりをそろえていったのだけれど、一枚だけ『何かあったときに』と普段の私があまり着なかったようなオレンジ色のワンピースをもって来ていた。目の覚めるようなオレンジ色の大きな花柄の模様は、自分にとっては派手だけれど、初めてのこの国でのおめでたい席にふさわしいような気がした。

一緒にいくという、すぐ下の妹にこれを着ていこうと思う、と確認したら、いいんじゃないという。無礼でないならと安心してそれを着ていくことにした。

当日。オレンジ色のワンピース姿の私を皆が『きれい』『似合うね』といってくれて近所のおばさんと妹と結婚式に向かった。

でもなぜか妹は私とはなれて歩いて、一緒に歩いてくれない。近所のおばさんに私を連れてくるようにといって先を歩いていった。おばさんはもうテンションマックスで、楽しみで仕方が無いようだったが、なんだか一抹の不安を感じていた。

この国の地方の結婚披露宴は花嫁の家の前などで舞台などを組んで中華料理のテーブルをたくさん並べて行う。みんな三々五々やって来て好きに食べて騒いでいる。オレンジ色のワンピースの外国人はそれはもう注目の的で。

花婿側の親戚や友人はみんな列をなして初めて身近に見る日本人を一目見て写真を一緒に撮ろうとわれもわれもとやって来た。

この時点で、このワンピースが大失敗だと思ったって、もう遅い。妹はどこにいるかわからず、断るすべも、先に帰る手だても無く、ただそのリクエストに応じるしかなかった。花嫁たちとその友人たちがお互いの腕を組んでぴったりと寄り添いながら私をにらんでいる。

所在ない、というのは本当にこういうことを言うのだろう。
そんな気持ちにこのオレンジ色のワンピースが本当にミスマッチで恨めしいことこの上なかった。何よりも、彼女の晴れの舞台にケチを付けてしまったことが申し訳なかった。

そのあとわかったのは、結婚式は破れていないこぎれいなTシャツにアイロンをあてて、穴のあいていないジーパンで十分だったということ。

オレンジ色のワンピースは、その日以降一度も袖を通すことは無かった。

 

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